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労務管理

中小企業も対象!カスタマーハラスメント対策の義務化に向けて今すぐ準備すべきこと

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中小企業も対象!カスタマーハラスメント対策の義務化に向けて今すぐ準備すべきこと

導入文#

カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)による深刻な被害が社会問題化する中、2025年6月に労働施策総合推進法が改正され、企業に対するカスハラ対策が法律によって義務付けられました。

この法改正は、大企業のみならず中小企業も含めたすべての事業主が対象となります。これまでは「努力義務」や「望ましい取り組み」とされてきたカスハラ対策ですが、今後は対策を怠ることで企業は法的なペナルティや甚大な損害賠償リスクを負うことになります。

本記事では、プロの専門家の視点から、中小企業の経営者および人事労務担当者が今すぐ理解し、準備すべきカスハラ対策の全貌について詳細に解説します。


1. カスタマーハラスメント対策が義務化される背景と時期#

なぜ今、国を挙げてカスハラ対策が進められているのでしょうか。重要な3つのポイントを整理します。

1-1. 義務化の時期はいつからか#

カスハラ対策の義務化は、遅くとも2026年(令和8年)12月10日までに施行される予定です。 これは、2025年6月に成立・公布された改正労働施策総合推進法の附則において、公布日から起算して1年6ヶ月以内に施行されると明確に定められているためです。

この期間は単なる「猶予」ではなく、社内体制を根本から見直すための**「準備期間」**です。就業規則の改定、相談窓口の設置、従業員への研修など、実効性のある体制構築には相応の時間を要するため、今からの計画的な対応が不可欠となります。

1-2. なぜ今、カスハラ対策が急務なのか#

顧客からの理不尽な要求や暴言が、現場で働く労働者の心身の健康と安全を深刻に脅かしているためです。 厚生労働省の調査では、過去3年間にカスハラを受けた労働者の割合が**15.0%**に上り、企業における相談件数も増加傾向にあります。

かつて日本社会に根付いていた「お客様は神様である」という過剰なサービス精神の歪みが、労働者の尊厳を著しく傷つける事態を招いています。従業員の安全と健康を守ることは、持続可能な事業運営を行う上でもはや避けて通れない経営課題です。

1-3. 中小企業が対象となる理由#

事業の規模にかかわらず、すべての企業に対して等しくカスハラ対策の雇用管理上の措置が義務付けられます。 改正法は、大企業と中小企業の区別を設けず、等しく「事業主」に対して労働者の就業環境を保護する義務を課しています。

中小企業は人員や資金などのリソースが限られているため、対応が後手に回りがちですが、法律上の猶予期間は設けられていません。経営トップが事態の重大性を認識し、率先して対策を講じることが企業存続の鍵となります。


2. カスタマーハラスメントの定義と該当する行為#

何が「正当なクレーム」で、何が「カスハラ」なのか。その境界線を明確にする必要があります。

2-1. 厚生労働省が定めるカスハラの定義#

カスハラとは、顧客等からのクレームや言動のうち、以下の3要素を満たすものを指します。

  1. 要求内容が妥当性を欠くもの
  2. 要求を実現するための手段や態様が社会通念上不相当であるもの
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

要求内容そのものに正当性があったとしても、大声で怒鳴る、脅迫するといった手段が暴力的・威圧的であれば、それは明白なカスハラに該当し得るという点が極めて重要です。

2-2. 具体的なカスハラ行為の類型#

現場で迅速に判断できるよう、以下のような代表的な行為類型が整理されています。

  • 時間拘束型:長時間にわたり居座る、何度も電話をかける
  • 暴言・暴力型:大声で罵倒する、土下座を強要する、身体的な攻撃を加える
  • 威嚇・脅迫型:SNSへの無断投稿をちらつかせる、反社会的勢力との繋がりを匂わせる

特に近年は、従業員の名札を撮影してネットに晒し誹謗中傷する行為などが深刻化しており、企業は毅然とした態度で拒絶する必要があります。

2-3. 正当なクレームとカスハラの違い#

要求の内容に客観的な正当な理由があり、かつその要求を伝える手段が社会の常識的な範囲内に収まっているかどうかが、両者を隔てる境界線となります。

項目正当なクレームカスタマーハラスメント
要求内容不良品の交換、不手際への謝罪など根拠のない要求、法外な慰謝料請求
手段・態度社会通念上、許容される範囲内暴言、威嚇、拘束、人権侵害にあたる言動

例えば、提供された商品が不良品であった場合に交換や返金を求めるのは正当なクレームですが、「不良品を売った精神的苦痛の慰謝料として高額な現金を払え」と要求したり、店員を大声で罵倒したりする行為はカスハラです。企業はこの明確な線引きを全社で共有し、対応のブレをなくす必要があります。

「カスタマーハラスメント対策マニュアル」を囲んで真剣に打ち合わせをする3人のビジネスパーソン。背景はモダンなオフィス。


3. 企業に求められる「雇用管理上の措置」とは#

法改正により、企業には以下の4つの具体的な措置を講じることが義務付けられます。

3-1. 基本方針の明確化と周知#

企業は「カスハラを決して許容しない」という断固たる基本方針を策定し、社内および社外に向けて広く宣言しなければなりません。 就業規則に方針を明記するほか、店舗やウェブサイトに「カスハラに対しては警察や弁護士と連携し、厳正に対処する」旨のポスターを掲示することが有効です。これにより、従業員に安心感を与えるとともに、悪質な顧客に対する強い抑止力を持たせることが可能になります。

3-2. 相談対応体制の整備#

従業員が被害に遭った際、安心して迅速に報告・相談できる専用窓口を設置します。 社内の人事部だけでなく、外部の社会保険労務士等を通じた第三者窓口を設置することも非常に有効です。担当者には被害者に寄り添う傾聴スキルと、冷静に事案を判断する基準を身につけさせる研修が不可欠です。

3-3. 事後の迅速かつ適切な対応#

事案が発生した際は、直ちに客観的な事実関係を確認し、被害者のケアと再発防止策を講じなければなりません。 通話録音や防犯カメラの映像など、客観的な証拠に基づいて状況を把握することが重要です。被害に遭った従業員には必要に応じて産業医の面談を受けさせるなど、きめ細やかな配慮が求められます。

3-4. プライバシー保護と不利益取扱いの禁止#

相談者のプライバシーを厳格に保護し、**「相談したことを理由とする不当な人事評価、解雇、配置転換」**などを禁じる規定を設けなければなりません。 労働者が報復を恐れることなく声を上げられる「心理的安全性」を法的に保障することで、制度の実効性を高めます。


4. 対策を怠った際の中小企業のリスク#

カスハラ対策を後回しにすることは、経営において致命的なリスクを招きます。

4-1. 行政指導および企業名公表のリスク#

義務付けられた防止措置を講じない企業は、厚生労働大臣による指導・勧告の対象となります。これに従わない悪質な企業に対しては、企業名が公表される規定があります。公表されれば、社会的信用は一瞬にして失墜します。

4-2. 安全配慮義務違反による損害賠償リスク#

被害を認識しながら放置し、従業員が精神疾患等に陥った場合、企業は安全配慮義務違反として高額な損害賠償責任を負う可能性があります。裁判例でも企業の重過失が問われるケースが増えており、中小企業の経営基盤を揺るがす経済的ダメージとなり得ます。

4-3. 従業員の離職と採用難のリスク#

「従業員を守ってくれない過酷な環境」に優秀な人材は定着しません。離職によるサービス品質の低下がさらなるクレームを生むという悪循環に陥り、最悪の場合は事業縮小や倒産というシナリオも想定されます。


5. 中小企業が今すぐ始めるべき準備ステップ#

施行に向けて、以下の3つのステップで準備を進めましょう。

ステップ1:現状の把握とルールの策定#

自社の現場でどのようなトラブルが発生しているか実態調査を行います。業態によって発生しやすいカスハラの類型が異なるため、現場の声に基づいた「自社独自の基準」を明文化することが重要です。

ステップ2:相談窓口の設置とマニュアル作成#

緊急時に誰に報告し、どう対処すべきかの手順を明確化します。 相手を無駄に刺激しない言葉遣いや、警察への通報基準などを盛り込んだ実用的な初期対応マニュアルを整備し、現場ですぐ確認できる状態にします。

ステップ3:従業員への研修と教育#

マニュアルを形骸化させないため、全従業員への研修が必須です。ロールプレイング形式を取り入れ、実際のカスハラ場面を想定した模擬訓練を行うことで、現場の対応スキルを体で覚える必要があります。


まとめ#

2026年に向けて義務化されるカスタマーハラスメント対策は、企業が**「従業員の命と尊厳を守る」**ための重要な経営課題です。義務化を単なる法規制と捉えるのではなく、より良い労働環境を構築し、企業価値を高める絶好の機会と捉えるべきです。

リソースが限られる中小企業においては、専門家の知見を借りながら効率的に対策を進めることが成功の鍵となります。

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まずは無料相談から、あなたの大切な従業員と会社を守る準備を始めましょう。


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監修者

渡邉 優

渡邉 優わたなべ ゆう

CSA社労士法人 代表社員。助成金申請から労務管理まで幅広いクライアントの人事労務を担当。助成金獲得支援、就業規則作成、社会保険手続き、労務相談を手がける。

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